アンナと兄フランツ(4)


(ライヴィッチとルナピンスキー)
 フランツは続けて話した。
「その頃だった。おじさんが父に、私を娘婿にしたいと正式に申し入れた。もちろん父は反対だった。その時私は22歳になっていたので、自分の立場をよく理解しているつもりだった。だが父は私以上に世界を知っていた。父は私たちの結婚を断固反対した。だから私は、大好きだったおじさんの方についた。おじさんは丁重に父との話し合いを持ちたがっていたし、何度も交渉の機会を持とうとした。しかし父は頑固にそれを拒絶した。
 そこで起こったのがあの事件だった。お前は、父が馬車に無理矢理乗せられて行くのを見た、と私に言っただろう。次の日に父は死んでいた。お前は父の葬儀の後、私に言ったよね。父は殺されたのだと。だがそうではないのだ。おじさんは父とどうしても会見したくて、馬車を父のもとに寄こしたのだ。それを拒絶した父を、おじさんの家臣たちは強引に馬車に乗せた。アンヌ、お前はそれを見たのだ。その時おじさんは、父が亡くなったあの離れの館にいた。父を乗せた馬車はそこへ向かった。父の本意ではなかったにしろ、おじさんと父の会見は行われたのだった。だが父の意思は固かった。私を娘婿にはさせられない、と何度もおじさんに言った。私は、なぜ父がこれ程まで頑固に反対しているのかが理解できなかった。最終的におじさんは、自分の立場を翳して父を脅したのだ。
 おじさんは父に、私を娘婿に差し出してこの国を守る方がいいか、このまま拒絶してこの国がおじさんの属国にされてしまう方がいいのかをよく考えろ、と怒鳴って帰った。私はおじさんと一緒に馬車に乗り、ウィーンへ向かっていた。そこへ父の死の知らせが届いた。私は一人で引き返した。
 アンヌ、父は本当に自害したのだ。自分の国を守る為に、そしておじさんや私への抗議の自害だった。愚かな私は、その時の父の真意が理解できなかったのだ。」