アンナと兄フランツ(3)


(再びライヴィッチとルナピンスキー)
「アンヌ、私はどんな顔をしてお前に会ったらよかったのだろうか。とにかく、今は『許しておくれ』という言葉しか出てこない。そしてお前にはできるだけ真摯に、神に忠誠を誓って全てをお前に話そうと思う。」
 アンナは涙が止まらなかった。フランツはその妹を労わるように、優しい口調で言った。
「まず私が結婚に至った経緯を、お前に話さないといけないね。これはずっと昔の、私がまだ少年だった頃の話だ。
 おじさんは一人娘しかいなかった。それが私の妻になったマリアだ。私とマリアは10歳も離れていた。だからおじさんは、男である私を遠い親戚関係にも関わらず、息子のように可愛がってくれたのだ。だから私とマリアは幼馴染であって兄妹のようなものだった。周りの誰もが私とおじさんの関係は、おじさんに息子ができるまでの執行猶予みたいなものだと思っていた。実際に父も私もそう思っていたのだ。
 ところが、いつまでも子供に恵まれないおじさんたちは、次第に私を寵愛してくれるようになったのだ。まだ少年だった私は、それが何を意味するのかわからないままに、無邪気にもおじさんと狩りに出かけたり、幼きマリアと遊んだりしたものだ。
 やがて私は、おじさんが私を婿養子に迎えようとしていると知る事になった。しかし世の中ではもっと早くに、その事の重大さがわかっていたし、もちろん父もそれがわかっていたからこそ、父はおじさんと疎遠になったのだ。
 世間知らずの私が、おじさんが喜んでくれる事が自分でも嬉しかったし、マリアと結婚する事は嫌ではないどころか喜びすら感じていた。しかし私の想像をはるかに超えるほど、世の中は私の存在自体が大きな問題になっていたのだ。」