間奏曲(1)


「どうしたのだ、珍しくお前さんから連絡があったと思ったら、こんな時間に呼び出しておいて、しかもヴェネチアから脱出したいなんて言い出すとは!」
 闇夜の中から響く声の持ち主はアントニオだった。
「ごめんなさい、私に何も訊かないで、私をヴェネチアから逃がしてください。」
 アンナはアントニオに懇願した。
「・・・やっぱり、ヴィヴァルディ先生の事なのか?」
 アンナは黙って肯いた。
「キャラたちは知っているのか?」
 アンナは黙って首を横に振った。
 しばらく間をおいてアントニオは言った。
「まあいいや、さあ、ゴンドラに乗れや。
 アントニオはアンナに手を差し伸べて、ゴンドラに乗せた。そしてアンナに言った。
「なあ、こいつも一緒に乗せるのか?」
「当然です。彼は今の私にはかけがえのない恋人ですから。」
「恋人・・・ねえ・・・」
 ひしめき揺れるゴンドラどうしの擦れる音に、怯え逃げ腰になっているアンナの恋人を、アントニオは無理矢理抱え上げてゴンドラに乗せた。アンナの恋人は現金な奴だった。彼はすぐにアンナに寄り添って嬉しげにシッポを振ると、ドカッと伏せた。