アンナとヴィヴァルディ(6)


(ルナピンスキーとニューファント)
「アントニオさんが行なっている事もヴェネチアへの忠誠心なのでしょうか?」
「そうだとも。世の中には必要悪もあるのだよ。」
「必要悪ですか?私には都合のいい言葉にしか聞こえません。」
「・・・・・・私たちは複雑な社会の中で息をしているのかもしれないな・・・・・・
 私はキアレッタやパオラたちを羨ましく思っている。彼女たちはゆるぎない大義とせいぎをもって生きている。その強さの源が音楽だ。その中で純粋にひたむきにまっすぐに生きている。彼女たちの世界では、彼女たちを吹き飛ばすような嵐も溜め息も起こらないのだ。」
「それは先生が目指した音楽の桃源郷のような世界でもあったのですね。ところがその桃源郷は、あまりにも有名になりすぎてしまった。だから誰もが考えていなかった事態になってしまった。私のような人間がヴェネチアの孤児院に入ってくるようになった・・・先生、そうでしょう?」
「ああ、ピエタ合奏団の演奏レベルがあまりにも向上してしまったのだ。評判が評判を呼び、ピエタ合奏団の評判が世界中に広まってしまった。その為に、貴族の御令嬢たちが多額の寄付金を持参して入ってくるようになった。それでも純粋に音楽を愛し練習してくれるのならまだいい。そうではない娘たちまでが入ってくるようになってしまった。」
「それが私やアントネッラなのですね?」
「いや、違う!君やアントネッラは、その輩とは一緒ではないぞ。なぜなら君たちは本当に素晴らしい音楽をピエタで提供しているではないか。むしろそうではない娘たちが問題なのだ。」