アンナとヴィヴァルディ(4)


 アンナは言った。
「なにも知らないキャラは、またアントニオさんと愛を深めているかもしれないのですよ。」
「音楽の表現で一番難しいのは愛だ。極上の音楽には愛が不可欠なのだよ。しかも誰でもいいのではないから厄介だ。アントニオはキアレッタの前では純朴な真の愛の奉仕者なのだよ。アントニオはキアレッタの為なら死ねる男だ。だからこそ私たちはアントニオを、彼の身がより安全であるゴンドラの商人へと導いたのだ。
「今、私たちって言われましたね。ストラディヴァリウス先生の事ですね?やっぱりヴィヴァルディ先生も同じ秘密結社の一員だったのですね。フリーメイスンリーの。」
「・・・・・・」
「先生の歌劇の題名が気になったのです。
 『試練の中の真実』『復讐の為の偽り』『愛と美徳 に打ち勝つ美徳』『裏切られのちに雪辱された忠  誠』これらは、先生が発信した同志へのメッセージだったのではないですか?」
「・・・・・・」
「最近の作品は随分すっきりした題名ですよね?
 『モンデスマ』『オリンピアーデ』など、これが今のウィーンでは流行なのですか?それともウィーンの音楽界へのアピールですか?
 先生、気をつけてウィーンへ行ってきてください。私、先生のお帰りを心よりお待ちしています。私、先生を敬愛しています。」
「君は聡明な女性だ。私があと30歳若かったら、君の事を積極的に愛していただろう。私はいつかきっとピエタへ戻ってくる。だから君にはピエタで待っていて欲しいのだ。」
 ヴィヴァルディはアンナの肩を強く抱きしめた。アンナの目から涙がこぼれた。