アンナとヴィヴァルディ(3)


「先生、私の尊敬するお姉さま、キャラの為にこれだけは教えてください。
 アントニオさんの事は、彼の真実の正体も含めてよくご存じですよね?どうして彼の事をそこまで知っていながら、キャラにその真実を伝えなかったのですか?」
 二人の間にしばらく沈黙の時が流れた。
 アンナは毅然とした態度でヴィヴァルディの顔を伺っていた。
 ヴィヴァルディはアントニオの事より、むしろアンナの兄の事で頭がいっぱいだった。アンナはどこまでお兄さんの事情を知っているのだろうか?そんな疑念を抱いてしまった今は、アントニオの事を話す方が随分と気が楽だった。
「キアレッタはピエタの宝だ。私の娘のようだった。だから彼女の愛を大切にしてやりたかったのだ。アントニオには更生の機会を何度もやった。歌劇場の歌手になる事も積極的に勧めた。だが彼は固辞したのだ。」
「それはカストラートになる条件だったからでしょう?」
「それは違う。真実はキアレッタにとってはとても残酷だった。私も周りもキアレッタを愛していた。アントニオも心からキアレッタを愛していたよ。だから私はアントニオを信じていた。だが、アントニオは華やかな音楽の世界ではなく、商人の道を選んだのだ。きっと彼はキアレッタと結婚できない運命を感じていたのだろう。」