ピエタの噂(2)


ウツボみたいと噂しているのは誰?)
「キャラはヴィヴァルディ先生が失踪する事を知っていたのではないの?」
 その頃のキアーラは、アンナの洞察力と会話における単刀直入な切り口には慣れていた。というよりも、そんなアンナと話をする事が楽しみになっていた。
「なぜアンは、そう思ったの?」
「だって私が初めてピエタに来た日、合唱長が皆の前で私を紹介した後、ヴィヴァルディ先生がピエタを去った事を皆に言われたわ。その時皆は動揺して騒いでいたけど、キャラは顔色一つ変わらなかったわ。私はそれを見て、この人は事情を知っていると直感したの。だからいつかその事を訊ねてみたいと思っていたのよ。だって私の尊敬するヴィヴァルディ先生の事なのですもの。すごく興味があるわ。」
「相変わらず鋭い観察眼ね。初対面でアンにはバレていたってことね。
 正直言って、プレーテ・ロッソの失踪の真実は私にはわからないの。では、なぜ私が先生の失踪を聞かされた時、表情一つ変えなかったのか?その答えは、ただ単に驚かなかったからかなあ。プレーテ・ロッソの失踪は初めてではなかったし、いつそうなっても不思議ではなかった。誤解しないでね。ジローの事ではないのよ。彼女とプレーテ・ロッソはそんな関係ではないと思っているわ。先生は彼女が欲しいのではなく、彼女の声が必要だったのよ。ただそれだけよ。
 プレーテ・ロッソはヴェネチアを愛している。でもヴェネチアは先生に優しくない。だから先生は寂しくなるとヴェネチアを出ていくの。そしてまた帰ってくる。その繰り返しよ。
 今度もプレーテ・ロッソはまた帰ってくるわ。だからアンも私を、いや先生を信じて待ってあげてね。」
「ええ、わかっています。なによりキャラが信じている先生だから。」
「ありがとう。じゃあ、お礼にプレーテ・ロッソの株をもう少し上げちゃおうかな。」
そうキアーラが言うとヴィヴァルディの思い出話をはじめた。