オーデションとアントネッラ(2)


(もう〜真面目にしてよ〜)
 オーデションでは、パオラとアントネッラの二人にオーボエ、フルート、バッソンの全てを演奏するように課せられた。それをピエタ合奏団の全員とヴィヴァルディの代わりとして合唱長が審査員として立ち会った。
 パオラの演奏はどの管楽器でも安定していた。キアーラはパオラの演奏に、彼女がこの5年間いかに努力してきたかを感じて大変感動した。それはピエタの皆も同じだった。そのくらいパオラはいつも練習をしていた。管楽器の音がする時はいつもパオラだった、と言っても過言ではなかった。
 一方、アントネッラはオーボエバッソンの演奏は全く駄目だった。彼女は吹いた事がないと言い訳をした。しかしフルートに関しては凄い技巧を持っていた。おそらくキアーラをはじめピエタ合奏団の誰もが、彼女のような素晴らしいフルートを聴いた事がなかっただろう。そのくらいアントネッラのフルートはピエタ全員の音楽的感性を圧倒した。
 だがオーデションの結果として、ピエタ合奏団の全員は平均的に優れた演奏をしたパオラを管楽器奏者に推した。それを聞いたアントネッラは、フルートにおける技術の優位性を強調しながら、他の管楽器を努力して練習すると主張した。
 そこでキアーラは、謙虚という感覚が欠如したアントネッラに大いなる不安を持ちながらも、皆にヴィヴァルディの意思を伝えた。管楽器奏者を、高音部と低音部の二人の奏者に分ける事とその重要性を話した。
 それでもピエタの皆は、パオラをオーボエ、フルート奏者に推し、アントネッラはバッソンを頑張るように諭した、その時だった。パオラは自らバッソン奏者になる事を申し出た。彼女は、いかにアントネッラのフルートの技術が素晴らしく、自分が努力しても彼女の技術に追いつけないと訴えた。そしてアントネッラが馴れないバッソンを練習するより、自分がバッソンを頑張る方が、ピエタ合奏団にとっても有益である事を主張した。
 キアーラは、この展開を予感していたような提案をしたヴィヴァルディに敬服すると同時に、アントネッラの我がままぶりに怒りの感情を持った。パオラの譲歩が結果的に全てをまるく治める事もわかっていた。しかしそれ以上に、パオラが5年間どれ程オーボエやフルートを頑張って練習していたかを誰よりも知っていた自分が、簡単に納得する訳にはいかなかった。その感情は、おそらくピエタの全員も同様に感じての意思表明だったのだろう。しかしその意思を押し通すとピエタ内に混乱を招く事になるのは誰もがわかっていた。それにパオラの主張した事が、ピエタ合奏団にとっても最良だと誰もがわかっていた。
 キアーラは皆に、オーデションの選考を自分に一任するようにお願いした。誰も意義を唱える者はいなかった。それは合唱長とて同じだった。それだけヴィヴァルディのピエタ合奏団での立場は絶対的だったし、キアーラは皆から一目置かれる存在になっていたのだった。