オーデションとアントネッラ(1)


(お前がアントネッラ?)
 パオラがピエタにきて5年が経ち15歳になっていた。初めて習った管楽器オーボエピエタで一番の腕前になっていた。それと同時にフルートもかなり上達していたし、身体も大きくなったからと始めたバッソンも、めきめきと腕を上げていた。その時キアーラは25歳だった。
 その頃にアントネッラがピエタにきた。彼女は既に18歳だった。
 新入りであるアントネッラには当然弦楽器が勧められた。しかし彼女は管楽器を希望した。キアーラは彼女に、管楽器に2人の若い娘は必要ないと告げても、彼女は管楽器の希望を撤回しなかった。それどころかアントネッラは、管楽器奏者を選ぶオーデションをしてくれと主張した。新人アントネッラがそこまで強引に主張できた理由を、キアーラをはじめほとんどのピエタ合奏団団員にはわかっていた。なぜなら18歳のアントネッラがピエタに入ってきたのだ。その事実だけで十分な根拠になった。
 キアーラは、アントネッラの主張を認めてオーデションをするべきかをヴィヴァルディに相談した。キアーラが相談にくる時はよほど困っている時だ。それがわかっていたヴィヴァルディは彼女に言った。彼の答えは全くもって明快だった。
「キアーラ、これからは管楽器といえども超絶技巧が必要な時代が必ずくる。管楽器の技術が向上するとオーケストラの中での管楽器の役割が飛躍的に高くなるだろう。
 キアーラ、管楽器を二つに分けるといい。つまり高音楽器のオーボエとフルート兼用奏者と低音楽器のバッソン奏者の二つに分けなさい。私は君たちの為にヴァイオリン独奏の為の協奏曲を創ったように、彼女たちに管楽器の為の協奏曲を創ろう。それによって管楽器の技術が飛躍的に高くなるだろう。キアーラ、私は絶対に約束を守る。だから君の判断で今回の出来事をうまく治めてみなさい。」
 キアーラは結局オーデションを行う事にした。だがヴィヴァルディはオーデションには現れなかった。それどころか彼は既にヴェネチアからいなくなっていた。その事をキアーラをはじめピエタの皆が知ったのは、彼がいなくなって数週間たった後だった。