アンナの実力(2)


(これも私の実力?)
(ああ、これはヴァイオリン協奏曲【冬】だわ。)
キアーラは、アンナの音楽性にすっかり心を乱されてしまった。
(緊張した重たいテンポの刻みは、まさに運命の時間のよう。そして突然に強く現れる激しいヴァイオリンの動きは精神の高ぶりとなって私の心を揺さぶってくる。)
 それまで暗く重く激しかったアンナのヴァイオリンは、第2楽章になると優しい空気の振動に包まれて神々しく歌われた。キアーラにはアンナの演奏が聖母マリアへの賛歌のように感じられた。キアーラの魂がゆっくりと浄化されていくように感じられた。
 キアーラは当然この曲を知っていたし、何十回と演奏会でも弾いていた。だから彼女はわかっていた。つづく第3楽章はまた嵐のような激しさが自分に襲いかかってくる事を。はたして自分はそれに耐えられるのか?
「アン、ありがとう。もういいわ。」
 キアーラは第2楽章が終わると、アンナの演奏を止めた。それはキアーラが次を聴きたくなかったからだけではない。聴く必要がないくらいに、アンナの実力が十分に認められたからでもあった。
「アン、素晴らしかったわ。あなたがどうしてそれだけの腕を持っているのか、私は詮索しないわ。それより今度のピエタの演奏会は、私と二人でヴァイオリン協奏曲をしましょう。それだけの実力があれば誰も文句は言わないでしょう。曲は2つのヴァイオリンの為の協奏曲イ短調【調和の霊感】第8番よ!」