アンナの実力(1)


(私の実力はこんなもんよ)
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「さあ約束だったわよ。今日はアンのヴァイオリンをじっくりと聴かせて。」
キアーラはピエタ合奏団の練習終了後、アンナを呼びとめてそう言った。
「ここにヴァイオリンがあるわ。あまりよい状態ではないけれど、ストラドだからまあまあの音は出せるわよ。」
「ストラド?」
「そう、ストラディヴァリ師匠の楽器よ。時々ピエタに楽器を持って現れるから、アンも近いうちに彼に会えると思うわ。さあさあ、早く弾いてみて。何の曲がいいかしら?楽譜を用意しようか?
「いいえ必要ないわ。ヴィヴァルディ先生の【四季】なら楽譜を見なくても弾けます。」
アンナはそう答えると、キアーラからヴァイオリンと弓を受け取り調弦をはじめた。4つの弦を低い方からソ・レ・ラ・ミと順番に音程を合わせていった。
 キアーラは心の中で驚愕していた。なぜならアンナは、ピエタ合奏団の音程をそのまま記憶していて寸分の違いなく調弦したのだ。つまりアンナは絶対音感を持っていて、そのまま合奏団で合わせて演奏できるレベルにまでに調弦したのだった。彼女のヴァイオリンの音は、練習部屋の空間を美しく澄みわたり、4つの調弦の音だけでキアーラを惹きつけた。
 アンナはアンナで一つ一つの音を調弦しながら、ヴァイオリンに感心していた。
(なんて素晴らしいヴァイオリンなのでしょう。調弦の音だけで、こんなに奥深く魂の籠った響きが出せるなんて!ああ、弾くのが楽しみだわ。【四季】の中から・・・昨日パオからあんな悲しい話を聞かされたものだから・・・よし、短調の曲がいいわ。)
 アンナはヴァイオリンを構えると、深く呼吸をして弓を動かした。