アントニオのゴンドラ(2)


(ゴンドラに乗って渡りたい・・・)
 パオラとアントニオは、岸から離れたゴンドラの上にいた。
 アントニオにとっては、船頭仲間から冷やかされない為でもあったが、それよりもパオラと会うやすぐに「キアーラ姉さんの事で、」と言われた瞬間、こうしようと決めた。誰からも聞かれない方がいいと判断したのだった。
「そうかあ、君がパオラさんなんだね。彼女から君の話はよく聞いているよ。」そう言うと、アントニオはパオラをゴンドラに乗せ、少し沖へ漕ぎだしたのだった。
 パオラは二人だけでゴンドラに乗って海へ出るのはちょっと怖かった。でもキアーラの為に自分が何かをしたいという使命感と、キアーラの恋人なら悪い人ではないという信頼が、ためらいとわずかな恐怖心を消してくれた。
「キアーラ姉さんという恋人がありながら、別の女性と結婚するって本当ですか?」
 アントニオは黙ってうつむいていた。
 時間ばかりが経っていった。海カモメの鳴き声が騒々しく耳に入ってくる。
「アントニオさん、なぜ黙っているのですか?何か言ってください。キアーラ姉さんが可哀想です。」
 パオラはそう言いながら涙を流した。アントニオはそれでも黙っていた。