アントニオのゴンドラ(1)


(ふて寝しています)
 翌朝、パオラは聖マルコ広場の船着場にいた。アントニオに合う為だった。
 何百隻ものゴンドラが停泊していたり往来していた。いくら歩きまわれるヴェネチアとはいえ、ゴンドラだって巡っている。しかもパオラはアントニオの顔を知らなかったのだ。
「アントニオさんを知りませんか?」
パオラは、あらゆるゴンドラの船頭たちに声を掛けながら走りまわった。
「お嬢さん、もう3度目だよ。」
「俺とつきあいなよ。だったら教えてやるよ。」
「パパは他の女と駆け落ちしたよ。」
など、いろいろとからかわれたりもした。何人かの別人のアントニオにも会った。しかし結局その日は、目的のアントニオには会えなかった。
 次の日もパオラは街中を歩きまわった。どこにでも人がいるように、どこを歩いても運河があり、そこに無数のゴンドラが浮かんでいた。パオラはヴェネチアに来て初めて面白い街だと実感した。そしてヴェネチアにとても興味を持った。
「そうだ、アントニオさんは『ナイチンゲールの鳥か ご』で歌っていたとキャラから聞いた事があったわ。歌が上手な船頭さんを捜せばいいのよ。」
 パオラはまず、歌いながら漕いでいるゴンドラの船頭を捜した。だが難しかった。ほとんどの船頭が歌っていたのだ。今度は歌が上手いかどうか耳を凝らして聴いてみた。それも難しかった。みんな結構上手だったのだ。
 結局、パオラは単純な聞き込みでアントニオを見つける事ができた。と、彼女は思った。
 実際には、13歳の少女がアントニオという男を捜しまわっていたのだ。しかもゴンドラの船頭だけを。船頭たちの間で噂が広まらない理由がないではないか。そのほとんどが変な噂だとしても、海の男たちは皆が少女に親切だった。だから2日目の昼には、パオラの前に、仲間たち数人に連れられたアントニオが、
「君かい?俺を捜しているんだって?」
と、やって来たのだった。