国営造船所(1)


(ルナピンスキーのアップです)
 すぐに平静なパオラになった。と、この時のアンナはそう思っていた。
「アン、次に向かうのは国営造船所よ。そこはピエタに近いから、できるだけ寄り道をしながら行きましょう。」
 アンナは半日歩きながら、ヴェネチアの街がとても歩きやすいのに驚いていた。
 街中の道が石で舗装されていた。だからアンナの足元はぜんぜん汚れてなかった。
 アンナの祖国の大きな街でも道は舗装されていなかった。パリやウィーンのような大都会でも、馬車が通ると砂埃が舞って歩く人は大変だ、と兄から聞いた事があった。
「パオ、街中の道が全部舗装されていてすごいね。とても歩きやすいわ。」
ヴェネチアは海の上に造られた国だって言ったでしょう。だから水がとっても貴重なのよ。石の道は、雨水を効率よく井戸に集める為の知恵なのよ。けっしてあなたの靴を守る為ではないのよん。」
 アンナは感心した。最後のつまらないジョークにではない。ヴェネチア共和国の知恵とパオラの知識にだ。ジョークは?おそらくアントニオの事で動揺しているのだと、アンナはパオラに同情した。