パオラがピエタに来た頃(2)


(ライヴィッチは売れ残って山田家に来ました)
 パオラはヴァイオリンが好きになれなかった。その頃のピエタでは、合奏団は弦楽合奏が中心だったので、皆がヴァイオリンやチェロなどの弦楽器を練習する事になっていた。オーボエバッソン(ファゴット)は、演奏会で常時必要ではなかったので、年配のお姉さまが担当していた。パオラはヴァイオリンだけでなく弦楽器そのものが自分に向いていない、と考えていた。そうなると『社会の一員になり、手工芸を身につける所へ行かなければならなかった。パオラにはその覚悟があった。
 ある日、そんな悩みをキアーラに話した。
「ねえパオ、あなたが弦楽器に向かないと言うのなら、私はあなたに、それでも頑張れとは言わないわ。でも、これだけは正直に答えて。」
 パオ、あなたは音楽が好き?」
 パオラは突然に泣きだした。パオラは『社会の娘たち』の一員になって手工芸で働く覚悟はあった。でも『社会の娘たち』になっても、ピエタの演奏会だけは、会場の外からでも聴きたいと考えていた。それ程にピエタの音楽が大好きだった。そしてキアーラの弾くヴァイオリンが少しでも聴こえてきたら、それだけで幸せだと思っていた。そんなパオラの心の中に、キアーラの『音楽が好き?』という言葉が、音楽の女神ミューズの言葉のように響いてきたのだ。その日までのいろいろな葛藤が、涙となってパオラの膝の上にこぼれ落ちた。なにも言葉にならなかった。ただただ何度も首肯くだけだった。