パオラがピエタに来た頃(1)


(ルナが山田家に来た頃のふてくされた顔です)
 パオラがピエタに来たのは彼女が10歳の時だった。その頃のピエタは、毎週のように行われる演奏会で、とても活況があった。ヴァイオリン独奏はもちろん、超人気者のキアーラだった。彼女は20歳になっていた。彼女はヴィヴァルディの成功と同時に成長していった。それは彼女の音楽だけではない。彼女の人間性も音楽性以上に大きく成長していた。
 ピエタの演奏会では、キアーラが独奏者としてヴィヴァルディの全てのヴァイオリン協奏曲を演奏した。もちろん、キアーラの後継者を育てる事も必要だと、誰もが分かっていた。しかし圧倒的な演奏技術と音楽性を持ったキアーラに追いつく後輩はなかなかいなかった。しかも、ピエタの演奏会を観にきた聴衆、特に遠路はるばるヴィヴァルディの音楽をキアーラの独奏で聴く目的だけの為にヴェネチアに来ていた人たちにとって、20歳の天才ヴァイオリニストの代わりなんて考えられなかった。唯一代わりが許されたのは、作曲家ヴィヴァルディ自身が演奏するヴァイオリン独奏のみであった。
 パオラは、そんなキアーラが眩しくて雲の上の存在だと思っていた。そんな10歳の新人のパオラにもキアーラは気軽に声をかけてくれたのだ。パオラにとっては、その時のキアーラの笑顔はヴェネチアの太陽のように眩しかった