ヴェネチアの娘たち(9)


(こんばんわ、おじゃましますニャー)
 ノックをするとキアーラが返事をした。中へ入ると、そこにもう一人若い女性がいた。
「アン、いらっしゃい。彼女が誰だかわかるわよね。今晩アンが来るからプレーテ・ロッソの話をするんだってパオラに話したら『私も聴きたい』って彼女も来ちゃったのよ。いいかしら?」とキアーラが言った。
 アンナは「ええ。」としか言いようがない。そうか、バッソンを吹いていた彼女はパオラというのね。アンナは人懐っこそうなパオラの顔をまじまじと見つめながらそう思った。
 キアーラはそのままパオラと話を続けた。
「パオの歳は私とアンの間くらいよね?アントネッラは確か年下だったよね?」
「違うわ、アントネッラは私より3歳年上よ。でもピエタでは私が先輩だよん。」
「ははぁん、だからアントネッラはパオに対していつでも上から目線なのね。」
「彼女は誰にでも上から目線じゃない?」
 なるほど二人の会話を聞いていたら、キアーラがアントネッラを好意的に思っていない事がよくわかる。パオラを今夜呼んだのも、キアーラに何か思う事があったのかもしれない。でも今日のアンナは、そんな事はどうでもよかった。それより早くヴィヴァルディ先生の事を聞きたかった。
 キアーラはそんなアンナの心中を察して、
「そうだったわ。今晩はこんなおしゃべりなんてどうでもよかったわね。二人はプレーテ・ロッソがピエタにきた時の話を聞く為に、ここへ来てくれたのだったわね。」
と言うと、少し深呼吸をしてから、遠い昔を思い出すようにゆっくりと話を始めた。