ヴェネチアの娘たち(4)


(ライヴィッチとおでかけよ❤)
 ピエタの暗い廊下にカツッ、カツッと響く音がする。アンナはマエストロ・ピエタに伴われて一緒に歩いている。するとその靴音に少しずつ華やいだ声がこだましてきた。アンナは経験した事のない雰囲気に心躍った。
 マエストロがドアを開けると、華やいだ空気が一変した。そして今度は静寂な空気の中で、アンナは少し驚いた。この人たちが孤児院の娘たち・・・?
「私のようなおばさんがいてビックリしているのでしょう?ピエタ慈善院の附属合奏団、称して『合奏の娘たち』の平均年齢は30以上で〜す。よろしく、キアーラよ。」
「はいはい、自己紹介は後にしましょう。今日は皆に二つの報告があります。」
 マエストロが彼女を制して話を続けた。
「一つは、今皆さんの前に立っている新人の紹介です。彼女の名前はアンナ・マリーアです。皆さん、マリーアと仲良くするように。
 キアレッタさん、マリーアはヴァイオリンを志望しているので、貴女がしっかりと教えてあげてください。
 それから皆さんには大変残念な報告があります。合奏指導のマエストロ・ヴィヴァルディが突然にヴェネチアを離れられました。でもまた復帰されると信じていますので、皆さんは今までどおり頑張って練習に励んでください。」
 マエストロはそう言ったものの、目の前の娘たちは騒然となっていた。
娘たちは普段から厳しく躾けられている事は、マエストロとこの部屋に入った瞬間、皆が静かになった事でよくわかった。それが今これだけ騒然となっているのだ。それだけヴィヴァルディが突然にいなくなった事が、ここの娘たちにとって大変ショックだったのだ。
 マエストロも娘たちの心中を察してか、しばらく黙ったままだった。
 アンナもショックだった。兄の一方的な言いつけに逆らってまで、合唱団ではなく合奏団に入ってヴァイオリンを志願したのは、ここにヴァイオリンの名手ヴィヴァルディがいたからであった。
 アンナは皆の前で自己紹介をした。ピエタの雰囲気はとても良く、社交的な性格ではないアンナでも、すぐに友達ができそうな気持になれた。その中でもキアーラは特別な存在だった。本人は、おばさんと言っていたが、表情はとても若く見えた。それに性格が可愛くて、彼女がピエタ合奏団のムードメーカーなのだとすぐにわかった。