山ちゃんの一日


(私たちもお買いものよ)
 山ちゃんのお店『赤いはりねずみ』のメニューは実に多様だ。チーズ・コロッケにウィーン風牛カツレツにお好み焼きに山芋鉄板があり揚げだし豆腐やマーボー豆腐まである。パスタもカルボナーラやらボンゴレもある。だから山ちゃんは今あるメニューをこなすのが精いっぱいの状態だ。いや、それすらもこなせていないのが現状だ。朝は買い出しに出かける。大根、厚揚げ、こんにゃく、卵、長芋、シメジなどなど、それにお酒やビールも買わなければならない。それらを一旦お店に持っていく。それで今度は米を研いでそのとぎ汁で大根を焚く。そして出しをとる。だしは本格的に昆布から始めサバ節、鰹節と使う。一度に4リットルは取る。その間におでん用のゆで玉子をつくる。そしておでんのだし汁を作り具を鍋に入れてから、牛筋肉を茹でて一旦家に帰る。帰り際に銀行へ寄って前日の売り上げを入金する。これは税理的に大切なのだそうだ。ついでに軍資金を取ってから家に帰り、自転車に乗り換えてお店に置く小銭を含んだお金を持って行く。何故自転車かって?・・・ふふふ。
 さて、店に行ってからが大変だ。簡単な掃除をしてから客席のセッティング。各席にナイフ・フォーク・スプーンを入れたケースを置いて行く。それに箸置きと箸を置く。それからおしぼりを作る。お湯を沸かしたらあとは仕込みというやつだ。長芋をすったり、キャベツを千切りにしたり、お好みの粉を溶いたり、ジャガイモをゆでチーズを切ってそれをコロッケにする。ついでに揚げ物は一緒に衣をつけておく。もちろん唐揚げもだ。それだけでも何かを忘れる。忘れたら注文を受けた時に大変なのだ・・・という事がわかってきた。だから仕込みは戦争のように忙しい。演奏会前に静かに集中する事の対極にある。最後にその日のメニューを書いてコピーをしにいって店に戻るのが、だいたい5時過ぎだ。(おいおい開店は5時ではないのか?ルナ)それから作務衣にきかえて電気をつけて暖簾を出す。6時までまずお客は来ない。一番ほっとする時間なのだ。