赤いはりねずみ、いよいよオープン


(私は、赤いお洋服よ!)
 いよいよオープンと言っても、何が変ったという事ではない。ただお店の中はお花や観賞植物でいっぱいだ。だが、相変わらず山ちゃんはそれを楽しむ余裕などなかった。それどころか仕込みが間に合わない。そこへお客さんがやって来た。あとはプレオープンと一緒で、てんやわんやの大騒ぎだ。友人家族や知り合いだけでなく、初めての女性のお客さんが娘さんを連れてきた。「カシス・オレンジ」なんて注文がきた・・が、カシスリキュールなんてない。その日も相変わらずパスタを作りながら唐揚げを揚げながら長芋をするなんて事をしながらビールを取りに行き栓を抜き出しては焼酎の水割りをつくるような戦場のような時間が過ぎていった。ある知人は自分たちでお勘定を計算していて、山ちゃんが「3千いくらです」と言うと「もう千円以上損をしているよ!」と言って5千円置いて帰って行った。おそらくプレオープンの2日間とオープン日で1万円以上は損をしていると思う。注文を受けたらすぐに伝票に書こうと思っていても身体が覚えられない。すぐに調理をしたりビールを撮ったりで、後ではっと気づき伝票に書くってな有様だ。この日のお客さんは皆「安〜」と言って帰って行った。
 その日の遅くには、同業者の女性(ママさん)も二人ほどやって来た。その時は落ち着いて対応ができたが、お店が終わると山ほどの洗い物が・・・結局その日も家に帰ったのが4時過ぎていた。そして朝にはその日の仕込みの事で頭がいっぱいだった。もう少し仕込んでおかないと、お客さんが来た時に対応ができないとわかった。例えば、長芋は注文がきてすっていては遅い。だからすっておく事にした。一時が万事そんなんだったのでオープン2日目の仕込みが終わる夕方まで、山ちゃんは全く余裕も無く他の事を考える余地すらなかった。だが、そのような事は続かないのだとすぐにわかった。
 その日5時に開店してやっと一息つけた。ところがそれは一息だけではなかった。二息、三息・・・結局その日は10時過ぎに来店した男性一人だけだった。