プレ・オープンもまた大騒動


(私も騒動が好きよ)
 山ちゃんは湯田温泉で育った。小さい頃に一緒に遊んだ同級生がタクシー屋や米屋をしている。ましてや魚屋、肉屋、酒屋などみんな一緒に遊んだりしていたし、そこら辺をうろうろしているおじさんなんて先輩だったなんて事が普通にある町なのだ。
 だから仮オープンは皆が家族で食べに来てくれた。本当なら涙を流して感激しなくてはならないのだが、今の山ちゃんにはそんな心の余裕なんてなかった。あっちこっちから声が飛んでくる。「山ちゃん、おでんと唐揚げとスパゲティ・ボンゴレと・・・」「マスター、ビールまだ〜?」「大将、焼酎のお湯割り頂戴」山ちゃんは昔から情報を抱えきれないと頭が真っ白になる。まさにお店の中で本当に頭が真っ白になった。注文されて調理をすぐに始めて、伝票に付け忘れるなんてしょっちゅうだった。こんな事で大丈夫なのだろうか?・・・なんて反省をする余裕も無く、仮オープン初日は過ぎていった・・・のではない。夜中0時の閉店後の山ほど積まれたお皿、コップ、調理器具などなど・・・山ちゃんは頭が真っ白になり顔は真っ青になった。とにかくまずはビールで一息ついた。(まずそこからかよ・・・ルナ)洗い物が終わった時は3時を回っていた。ところが、カウンターに出てみると、まだ食べ終わった皿やコップがずらっと並んでいた。
結局その日家に帰ったのは5時だった。
 プレ・オープン2日目は友人が5人連れて来てコースを予約で頼んでくれていた。浅はかな山ちゃんは張り切ってメニューに無いものを出す事にした。洋風なスープや前菜まで用意した。ましてや手作りでニョッキまで作った。それが誤算の始まりだった。だってお客は友人たちだけとは限らない。案の定、他のお客さんも入って来て前日同様てんやわんやの大騒ぎ。もっとも大騒ぎをしているのはカウンターの中の山ちゃんだけ。他の客は前日同様辛抱して料理ができるのを待ってくれている。コースを頼んでくれた友人たちも本当に奇特にも耐えている。山ちゃんは感謝する余裕もなく自分と戦ったのだった。結局その日も家に帰ったのが4時だった。その3時間後には高速道で小倉へ向かっていた。眠くなる余裕などなく、いよいよ月曜日のオープンに向けて仕込みの段取りを考えていた。