卒業試験オーケストラ・スタディの巻き


(まだ卒業試験があるのかにゃ〜?)
 試験管の先生が山ちゃんに「まず自分で曲を決めて演奏してください。」と言った。予定通りだった。山ちゃんは難しい嫌な曲を演奏する事に決めていた。それは先生から指定されて演奏するとプレッシャーがかかるからだった。だから山ちゃんはまずドビュッシーの牧神の午後のための前奏曲の冒頭のソロから演奏した。次にメンデルスゾーン真夏の夜の夢からスケルツォの長いソロの部分を演奏した。これは会心の出来だった。会場から拍手が起こった。これでブラームスを吹いて調子に乗るはずだった。ところが次から教授陣たちが一人ずつ曲を指定してきた。ちょっと動揺したせいではないが、モーツァルト魔笛からはあまりいい出来ではなかった。あとは記憶にないから恐らく無難に演奏できたのであろう。そして最後の最後にある先生が「最後に1曲あなたのしたい曲を吹いてください。」と言った。山ちゃんは当然ブラームス交響曲第4番の第4楽章の中のソロを吹いたのだった。吹き終わると先生が「以上で卒業試験を終了します。」と告げると会場は一斉に大きな拍手に包まれた。感動の瞬間である。これで卒業試験が終わったのだ。成績の結果発表はその場で行われる。教授陣がそこで協議して直接山ちゃんに結果を伝えるのだった。だから協議中は山ちゃんも含めてみんなを会場から締め出されるのだった。多くの学生はそのまま帰るのだが、結果を聞きたい人はそのまま山ちゃんと一緒に会場外で待つ事になる。時間にして20分程度だろうか。会場外には山ちゃんに5人程度の日本人留学生や5人程度のフルートのクラスメイトが見守ってくれていた。クラスメイトは山ちゃんの成績を今後の物差しにしようと思っているに違いなかった。フルートの卒業試験が行われたのは本当に久しぶりの事だったのだ。そのうち会場のドアが開きアヒレス先生が顔を出し山ちゃんを招き入れた。いよいよ結果発表である。