ああ楽しき夏期講習


(私たちのアンサンブルは完璧よ!)
 山ちゃんはアンサンブル講習会にデトモルトの仲間であるピアノの日本人女性(以前にエピソードを書いた)とチェロのドイツ人女性とでチェルニー作曲の三重奏曲で参加した。当日他のアンサンブルの発表があって、ルーセルの喜遊曲に決まった。山ちゃんは曲を知らなかった。確かヴァイオリンとヴィオラ、チェロにハープとフルートだったような気がする。今ではあまり記憶が無いのだ。何故なら、確かに素敵な曲だった。メンバーもはっきりと覚えている。無邪気で明るく上手なヴァイオリンのドイツ人女性、クールであまり笑わないヴィオラのドイツ人女性、眼鏡をかけておとなしいチェロのドイツ人女性、それにハープとあとクラリネットがあったような気がする。今書きながら一人よく笑っていたドイツ人女性の顔を思い出した。
これだけ覚えているのに、あまり記憶が無いのには理由がある。山ちゃんはアンサンブル、つまりいろいろな人と一緒に演奏するのが好きだった。だからルーセルを選曲させた時はすごく喜んだ。しかしながら彼女たちがなかなか合わせの練習に参加してくれないのだ。一応練習時間もプログラミングされていた。でもほとんど全員がそろった事が無かった。理由は自分たちのアンサンブルの練習で忙しいとの事だった。
 この講習会は3週間もある。その第3週目は近郊の都市のいろいろな会場で演奏会があった。当然山ちゃんたちのアンサンブルもリューベックという都市の市庁舎のホールで演奏した。しかしそんな練習状態だったのでいい演奏であるはずが無かった。まあ悪くはないかなという程度だった。その時、一緒に演奏した曲にドヴォルザークの管楽器のセレナードがあった。いい演奏だった。拍手喝さいだった。
 次の日その演奏会の批評が新聞に出ていると見せてくれた。山ちゃんたちの演奏は酷評だった。よく覚えていないらしいがかなりの酷評だった記憶があるそうだ。ドヴォルザークは絶賛されていた。特に1番オーボエの青年はインテリジェンスな歌い方とリードが素晴らしいみたいな事が書かれていた。その彼は現在ベルリンフィルの団員として演奏している。