新しいフルートが見つかった話


(新しい酒はないんかい〜?)
 山ちゃんは、日本にいる間にフルートを調整する事にした。音楽大学時代から懇意にしていた広島の調整の名人の所へ挨拶を兼ねて尋ねた。その名人にフルートを探しているがいい楽器がなかなか見つからない旨の話をしたら、その名人は日本のメーカーのS社の楽器を吹いた事があるか?と訊いてきた。無いと答えると、自分の知り合いの医者が持っているので持ってこらせるから吹いてみろと言う。そんな訳で次の日に再び名人の家に尋ねた。S社のフルートは素晴らしかった。山ちゃんは、日本にいる間に手に入れば欲しいと伝えた。但し(ここからはフルートをしている人しかわからない専門的な話でごめんなさい)インラインのリングキーではなくオフセット・リングにしてほしい事とEメカニズムはつけて欲しい事も補足した。ハンドメイドフルートは受注生産なので山ちゃんが伝えた事は不可能だと言われるのを期待しているよ、と言っているようなものだった。実は名人はかなりのご高齢だった。彼は自分はS社の社長と仲がいいので訊いてみようと山ちゃんの目の前で電話をかけた。そして何度かのやり取りで、名人は山ちゃんにこう言った。S社の社長が、全く同じ条件のフルートをある有名なフルート奏者に頼まれて丁度出来上がったので、それをあなたにまわそう。という事だった。そして2日後にそのフルートが山ちゃんの手の中にあった。まさしく奇跡的な出会いだった。ドイツであれだけ探しまわったフルートがたった4,5日で手にできたのだ。しかも素晴らしいフルートだった。こうして山ちゃんは、あっという間にフルートも手に入れたのであった。あれから24年たった今もそのフルートを吹いている。