救世主現れる


(救世主って私の事?)
 山ちゃんは学生オーケストラにのっていた。曲はヤナーチェックシンフォニエッタだったと記憶している。時を同じくして山ちゃんはあるカップルと仲良くしていた。彼女が日本からきたヴァイオリンの留学生で彼はハンガリー人のチェロ弾きでイムレと言った。どうして彼らと仲良くなったのか実はよく覚えていないらしい。気が付いたら毎晩のように彼らの部屋に行ってカードゲームをやっていた。山ちゃんがデトモルトへ留学した時にはチェロのイムレは有名だった。優秀な成績で卒業して2年間の兵役で国に帰っているという話だった。彼はハンガリー人だが国は当時ユーゴスラヴィアと呼ばれていたバルカン半島だった。この辺も当時のお国事情がうかがえた。ちなみにドイツでも兵役の義務がある。兵役のため休学していなくなるドイツ人も少なくなかった。兵役を拒否もできた。その場合はボランティアを義務付けられていた。
 さてその有名だったイムレとなぜか仲良くなっていた山ちゃんは、卒業試験の曲も決まっていないし、アンサンブルの曲も決まっていないという話になった。するとイムレが「僕が一緒に演奏してやるよ」と言ってくれた。ビックリである。彼に演奏してもらおうなんて夢にも思っていなかったのだ。しかも彼女も一緒に演奏してくれるという。山ちゃんにとってまさに、救世主現れる!の心境だった。せっかくヴァイオリンとチェロがそろったが、モーツァルトは止めておこうという事になっていた。山ちゃんは彼らと大好きだったバロックの名曲をする事にした。J.S.バッハの『音楽の捧げもの』からトリオ・ソナタを演奏する事にした。