プラハの夜に乾杯(その2)


(えっ、誰がかわいいって?)
 山ちゃんと2人の学生らしき若い男子はドイツ語で大いに盛り上がった。山ちゃんは彼らに訊いた「それ、何を飲んでるんだい?」彼らは言った「ゼクト(ドイツの発砲白ワイン)だよ。これが安くておいしいのさ」レストランで贅沢しても3000円程度で今6000円程度持っていた山ちゃんは調子にのって、「じゃあ僕がおごるから1本頼もう」と言って、中の女性に「ゼクトを1本」と頼んだ。すると女性は大きな声で中のお客さんに何か言ったと思ったら大歓声がおこった。チェコ語はわからなかったが、こんな雰囲気だった「みなさ〜ん、こちらのお客さんがゼクトを一本注文されました〜!」観客「うぉ〜」そして、女性がゼクトを高くかざして見せて、そして栓をポンと抜くと会場が大きな拍手に包まれた。
山ちゃんは内心ヤバイと思った。完全に酔いが醒めてしまった。でも仕方がない。お金はある。1本のゼクトを男子たちのグラスに注いでから山ちゃんも新しいグラスに注いで乾杯をした。彼らはグラスを空にすると「ちょっとトイレにいってくる」と言って消えた。
そう戻ってこなかった。カウンターの中にはいつのまにか強面の男が女性と一緒にいた。本当にヤバイ状況になった。山ちゃんは平静を装ってゼクトを飲みながらいろいろと思案していた。料金が高くても仕方がないと覚悟をした。
 そのうち瓶が空になった。山ちゃんは「支払いを」と言ったら女性が紙を差し出した。案の定けっこうな数字だった。コルナを日本円に換算してびっくりした。なんと約1万5千円だった。ホテルも豪華な食事も3000円程度の国で15000円だ。しかも、山ちゃんは6000円程度しか持っていなかったし、ホテルに帰っても数千円しかコルナは持っていなかった。但し肌に付けていた隠し財布には全財産がドイツマルクである。
山ちゃんは掛けに出た。その女性に大きな声で、
「あなたは隣の2人の男を知っているだろう。あいつらが『ゼクトが安くてうまい』と言ったんだ。あいつらはトイレへ行くと言っていなくなった。私の財布にはこれだけが全部だ。だからあとはその男たちに払ってもらってくれ。」そう怒鳴ると、女性の目の前で財布からお金を全部出してカウンターに置いて財布も置いて堂々と店から出た。店を出てからホテルと反対方向へ走って逃げた。そして大周りしてホテルへ戻った。まったく生きた心地がしなかった。当然その夜は眠れなかった。