デトモルト音大案内(その2)


(ヘロヘロルナピンスキーです。)
 デトモルト音楽大学本部は元宮殿だったのだが、山ちゃんが利用したのは1階部分(厳密に言うとドイツでは地上階という)と地下の学生食堂だけだったので2階建てだったか3階建てだったか覚えていないらしい。でもわからない位大きな建物だったのだ。上の階はピアノ教授の部屋だった。あとチェンバロ教授の部屋もあった。デーリンク教授で一度だけバッハのフルートソナタのレッスンで入った事があった。
さてフルートやその他のレッスンは別の所にあった。
ではその元宮殿の本部から出てそちらの方へ向かおう。正面玄関から出て左へ向かって歩いてすぐに、少し大きな建物が見える。すぐにホールかな?とわかるような近代的な建物だ。所謂大ホールで収容人数は1000名くらいだろうか。舞台は広いのでオーケストラ演奏も十分堪能できるし、オルガンも備え付けられているのでよくオルガン演奏会もあった。このホールで卒業試験のコンサートが行われるのだ。当然学生オーケストラの演奏会もここで行われた。またいろいろな演奏会もここで行われた。山ちゃんは今、チェンバロの事を書いた後なので思い出したようだが、こんなコンサートがあった。当時ベルリン・フィルのフルーティスト、カール・ハインツ・ツェラーの演奏会がそのホールであった。チェンバロはデーリンク教授だった。ヘンデルやバッハのソナタを中心とした素晴らしい演奏だった。後半の演奏だった。フルートある音が出なかった。具体的にはレのはずが変なドの音になってしまった。これはフルートではよくある事で、キーを上げても水膜が張って音が変わらなくなる。山ちゃんもツェラーもそう思った。ツェラーはその穴に息を吹きかけて、演奏をやり直した。が、また変な音になった。ツェラーはすまない顔をして、また息を強く吹きかけ、演奏を始めた。また変な音になった。ツェラーはフルートをよく点検した後、何か持ってないか?と、チェンバロのデーリンクにジェスチャーを交えて訊いていた。どうやらキーを塞ぐバネがはずれていたらしい。これもよくある話だった。小さなドライバーがあればすぐになおせる。針金のようバネをひっかけて戻せばいいのだ。デーリンクはズボンのポケットをまさぐってジャラジャラとあるものを出した。会場は学生が多かったので大爆笑だった。でもツェラーはそれですぐにバネを戻して、それをデーリンクに返して、デーリンクはそれを爆笑の渦の中、ズボンのポケットに入れて、演奏は再開されたのだった。普通のコンサートではない情景だったろう。デーリンクがポケットからジャラジャラと出したのは、自分のレッスン部屋の鍵などいろいろな鍵が束ねてあるモノだった。