ひっそりとスイスへ出発する


(いつでもどこでも行くわよ)
 山ちゃんはこの夏休みは遊んでばかりいられなかった。実はスイスのローザンヌで講習会を受ける事になっていた。その講習会は2年前に受けた所で講師も、同じアドリアンだった。しかもそのスイスには、1年前に行ったイタリアの講習会で知り合ったアレキサンダーテクニックの講師ユルゲンがチューリッヒに住んでいた。ずっと文通していた。講習会へ参加する前に行こうと考えていた。しかし1週間の安静命令が出ていた。講習会では2年前と違って課題曲が課せられていた。しかもその曲は、ベリオのゼクエンツという現代曲だった。ご存じの通り山ちゃんはこの夏、トルコ、ギリシャへ行った。本来は帰ってから練習をしてスイスへ行く予定だった。なのに誘惑に負けてドイツオルガンの旅へ行った。しかもエイズならぬ水疱瘡にかかって帰って来た。そして安静命令である。
このままスイスへ行くと練習出来ないではないか!でも今年行かないとユルゲンに会えないかもしれない。
まさに葛藤であった。
 山ちゃんは決めた。チューリッヒのユルゲンの家で練習をすればいいのだ。素晴らしい!
しかも1週間も寝ていてはユルゲンの家に滞在する時間がなくなる。
山ちゃんは、発症して4日目にひっそりと逃げるようにデトモルトを出て行った。
(よい子の皆さんはけっしてマネをしないでください
  ルナピンスキー)