斜陽の街、ベオグラード


(スシ詰めって、こんな格好かなあ?)
 ベオグラード駅で帰りのミュンヘン行き列車の発車時刻を確認して街へ歩きだした。列車は5時半頃着くので、駅へは余裕をもって5時ごろにもどる事にした。
 街は山ちゃんにとって全く魅力のない所だった。まあ仕方がない。トルコからギリシャを観光した帰りなのだから、その時の山ちゃんはミュンヘンでもつまらなく感じたのだろう。でも理由はそれだけではない。何と表現したらいいのだろう。もちろんベオグラードは過去からのたくさんの戦禍の歴史を考えると、古き良き伝統的な建物が並んでいるとは考えていなかった。では東ヨーロッパの社会主義国のような独特な重い雰囲気があるわけでもなかった。だから歩いていて身の危険を感じるわけでもないが、西ヨーロッパのように自由に買い物を楽しむ雰囲気でもない。自由がない訳ではなく買うものがない。当然、ウィンドを見て楽しむような華やかさはなかった。とにかく全てが中途半端だった。お昼にちょっとした食べ物を購入するような雰囲気の店も無いのでお昼を抜いて夕方レストランを利用する事にした。2000円程度両替していたが何も使ってなかったので全てをレストランで使う事にした。
 一番いいレストランを尋ねてそこへ入った。時間が少し早かったのでお客は少なかった。それにしてもナンダ!この暗さは?今までの癖で、メニューがわからなかったら他の人の食べている物を注文しようと、黒いタキシード着たお爺さんとドレスアップした小学生位の孫娘であろう二人が座っているテーブルの隣へ座る事にした。汚い服を着た半ズボン姿の山ちゃんは申し訳ない思いで汚いリュックを床に置いて座った。二人が食べている物を見てビックリした。小魚のメザシのようなものをナイフとフォークを使って食べているのだ。山ちゃんは読めないメニューを見て、値段をチェックして給仕の人を呼んだ。「一番おいしい物はどれ?」とメニューを見せて訊くと、これだ、と指さしてくれた。約1500円だったのでそれにビールとを注文した。持ってきたのは丸ごとのタイを多めの油でソテーしたような単純なものだった。「これがこの国のご馳走なんだ。」と思って、隣の老人と孫娘さんに申し訳なく思いながら食べた。
 さて、駅へ戻ってからが大変だった。なかなか列車が来ないのだ。どのくらい遅れているのか尋ねてもわからないという。結局5時半出発の列車が来たのは夜10時半を過ぎていた。しかもだ、どこの列車入り口のドアを開けても人でぎゅうぎゅう詰めだった。本当に入れない。何とか一番端っこの車両に無理やり乗りこんでトイレのドアに挟まれるように身を小さく縮めて夜を過ごした。当然眠れるわけない。
 翌日早朝ミュンヘン着の予定も当然昼前に着いた。それまでずっと同じ姿勢だった。さすがにミュンヘンを観光して行こう、って気にはならずにそのままデトモルトへ向かう列車に乗って帰った。