列車の中、青唐辛子で死にそうになった話


(列車の中はこんな感じ?)
 山ちゃんはW氏と一緒にミュンヘンから乗った列車で一夜明かした。山ちゃんは列車の旅は好きな方だったし、今でもそうだが、列車の中ではだいたい外の景色を眺めているか、列車内の人を見ているかだ。もちろん片手には絶対ビールか他のアルコールがつきものだ。その山ちゃんですらユーゴスラヴィア国内の列車の旅は退屈した。外の景色が何の変哲もない風景が続いて面白くないのだ。それにトマトが熟したような臭いが列車内に充満していた。本当に退屈していた。同行のW氏は列車マニアのようで、時々「電化されているんだ。」とか「ここは幹線なのにまだ電化されてない。」など呟いている。山ちゃんにとって鉄道はみんな電車なのだが、W氏は電化された線を走るのが電車で、電化されてない線はディーゼルで走るのだという説明をするが山ちゃんは理解できるわけ無い。でも、お互いが暇だったのでW氏は無知な山ちゃんに一生懸命電車の説明をしてくれたそうだ。その結果、山ちゃんはそれ以来、鉄道を列車という単語で呼ぶことにしたそうだ。
 さて一日中列車の中だと唯一の楽しみは食事だった。贅沢に食堂車で昼食をとる事にした。1500円程度の定食を頼んだ記憶があるがよく覚えていない。何故ならそのすぐ後、瞬間に記憶が一つの事で止まってしまったのだ。それは、最初にスープを飲んだ瞬間だった。そのスープにはシシトウガラシのようなものが浮いていた。山ちゃんはシシトウが好きだったし、ドイツ人は基本的に辛い物が嫌いだったので長い間唐辛子を食べていなかった。だから山ちゃんは喜んでそのシシトウを食べたのだ。それは恐ろしいほど辛い本当の青唐辛子だった。山ちゃんにとって体験した事のない辛さだった。本当に死にそうな辛さだった。その後何を食べたか記憶にないばかりか、夕食もとれない位舌と胃袋にダメージを受けた。それ以後、軟弱な山ちゃんは唐辛子(特に青唐辛子)には、慎重に対応しているそうだ。その夜はまだまだ列車の中だった。