山ちゃん、いよいよオーケストラにのる。


(ルナピンスキーは仲良くおねんねだよん)
 楽しいスペイン旅行から帰った山ちゃんを、デトモルトでの2年目になる学生生活が待っていた。1年目のレッスンはバロック時代の音楽が中心だった。最初はクヴァンツのト長調の協奏曲から始まり、ヘンデルやJ.S.バッハ、その大バッハの息子エマニエル・バッハなどのソナタ無伴奏の曲をひたすら吹いた。
1週間で曲を仕上げて、よほど悪くなければ次の週には違う曲を練習していた。何より山ちゃんが楽しかったのはそのすべてに伴奏が付いていた事だった。いろいろな日本人ピアノ学生が伴奏をしてくれた。日本人ピアニストはドイツの音楽大学では大人気だ。上手であり、初見演奏力があり、性格がいい。個々の差があっても相対的には圧倒的に日本人ピアニストは上手だった。あとバロック時代のソナタではチェンバロ伴奏もしてもらえた。当時は日本人に人気のチェンバロの教授がいたので、上手なチェンバロ学生も結構いた。それに何よりもチェンバロの場合は室内楽の要素が多分にあるので、チェンバロのレッスンにフルートを持ってついて行った事もあった。他の楽器の素晴らしい教授に習うのも山ちゃんにとって大変勉強になった。
 デトモルト音楽大学2年目に入った山ちゃんはアヒレス教授(フルートの先生)は、学生オーケストラで吹くように言われた。デトモルトには学生オーケストラがあり、年間にたくさんの演奏会があった。当たり前のようだけど、日本ではそんなに当たり前ではない。年1回の定期演奏会に力をいれ、あとちょっと演奏する機会があるか無いかだった。だから『音楽大学へ行ったのに一回もオーケストラで吹いたことない』なんて話はフルートでは当たり前のようによくある。だけどドイツのオーケストラはいろいろな曲をたくさんやり、学生オーケストラの演奏会もたくさんあった。そのオーケストラにのれる事になったのだ。山ちゃんは嬉しくてその晩いつもの3倍はビールを飲み、ブランデーも飲んだ。(それしかないんかい!ルナ)