アランフェスからアルハンブラへ


(ここはライヴィッチの小さな宮殿だよ)
 音楽大学生であった山ちゃんたちにとって、次に向かう目的地はスペイン音楽の名曲巡りだったのだ。
マドリッドを出発して最初に向かったのはアランフェスという小さな町であった。そこにはスペイン音楽やギター音楽が好きな人は誰もが知っているロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」というギター協奏曲で有名なアランフェス宮殿があったのだ。その曲の第2楽章は憂いの中に情熱的な想いが込められた旋律が素晴らしく、聴けば誰もが耳にした事を思い出すであろう。山ちゃんは単純だからアランフェスに向かう列車の中からすでに頭の中でその旋律が鳴っていた。
正直言って宮殿はあまり期待していなかった。山ちゃんの認識では曲は有名だが宮殿は写真でも見た事無かったのだ。ところが実際に宮殿を前にして、その大きさに少しだけ感動した。周りの静かな環境の中にその宮殿は建っていた。ドイツの有名なノイシュバンシュタイン城や大聖堂のように、天に向かってそびえ周りを圧倒するような建物ではなく、大きさで圧倒させない雰囲気をもった城に好感が持てた。中に入るとその好感は感動に変わった。絹のような布が一面に張られた壁や装飾はけっして派手ではないがセンスを感じた。いわゆるキンピカで王の威厳を象徴させた宮殿ではなかったのだ。山ちゃんはこの宮殿を建てた王の人柄にアランフェス協奏曲の旋律を重ねながら次の目的地、アルハンブラ宮殿で有名なグラナダへ向かったのだった。その列車の中で、すでに山ちゃんはギター演奏家タレガが作曲した名曲『アルハンブラの思い出』が頭の中で巡っていた。本当に単純な頭であった。