山ちゃんがバルセロナで殺されそうになった話


(私もピカソのモデルになりたい・・・)
 ピカソ美術館は、バルセロナの下町のような場所にあった。車も離合できそうもない狭い路地に石造りの3階建ての建物が建ち並んでいる。3階の窓から道路越しの窓にロープが張られ洗濯物が万国旗のように揺れている。そんな一角にあるピカソ美術館に山ちゃんたちは入った。
 油絵のような大作は少なく、闘牛士ミノタウロスギリシア神話に出てくる半人半牛の怪物)などを黒1色で描かれたスケッチ風な作品が多かった。だが、それらの作品は日本の墨絵や書道にも通じるものがあり大変興味深かった。
 山ちゃんたちはピカソ美術館を出て歩きだした。その時事件はおきた。突然「きゃ〜」と言う声!連れのHさんの声だった。そして「バックが!」と続いて発せられた声!山ちゃんの脇を走り抜ける少年一人!山ちゃんはスリだと直感したらしい。そして少年を追いかけた。山ちゃんの足でも楽に追いついた。少年は中学生のような面影だった。『勝てそうだ』と思ったその時少年がジャックナイフを懐から取り出した。マズイ!だが回避はできない。そう覚悟した山ちゃんは旅行本を片手にナイフと格闘した。少年は意外に弱く追いつめたその時だった。突然に山ちゃんは後ろから羽交い絞めにされた。それは山ちゃんよりはるかに背の高い男だった。『このまま少年に刺されてしまうのか!』と思ったら、男と少年は逃げて行った。その方向にもう一人男がおりY君からバックを奪って一緒に逃げて行った。彼らの目的は金のみだったようだ。逃げる彼らを3人で捜したらY君のバックを持った男が遠くで叫びながらその場にバックを置いて逃げて行った。当然中の財布はなかったがパスポートが入っていた。警察に行くとHさんのバックが届けられていた。パスポートも入っていたがクレジットカードは無かった。とにかくパスポートを失うという最悪のシナリオは回避できたわけだ。もしパスポートを無くしたらスペインの日本大使館で再発行してもらう手続きをしなければならなくなり、1週間は足止めをくらう事になってしまうのだ。とにかくなんとかスペイン旅行は続けられる事になった。ただ、山ちゃんは二人がパスポート再発行で足止めをくらっている間でも一人で旅行をしようと考えていたそうだ。(山ちゃんはそんな薄情な男なのである。私たちの散歩でも私が歩きたくないとアピールすると、すぐに「じゃあここで待っときな!」と言って私を置いてライヴィッチと一緒に歩きだす。そんな男なのだ。プンプン!ルナピンスキー)