山ちゃんのおもしろきかな寮生活(その1)


(こんな美しいサクラのような音で吹くのだぞ!)
 さて、学生寮での生活は山ちゃんにとっては最高に快適だったらしい。
 小高い山の上にあり練習環境がいい上に、5分も歩けば目の前に広がる菜の花の丘陵地があり自然環境もいい。町にも5分もあれば山から下りられた。フルートのレッスン室も歩いて5分だ。寮の中にも小さな練習室が10室程あり、ボロとはいえピアノも置かれていた。そこでは朝7時から練習できたし夜も9時まで練習できた。部屋は完全個室で水道も来ており空調も完備され申し分ない環境だった。
 唯一困ったのは、隣部屋のイタリア男がわがままな事くらいだった。自分は夜中まで大音量で音楽をかけていながら寝る時は、山ちゃんの部屋の音がうるさいと壁をドンドン叩いてきた。しかしこれもすぐに解決した。ある日山ちゃんの部屋でフルートのクラスメイトであるペルー人と一緒に飲んでいた時だ。例の隣からドンドンと壁を叩く音が・・・山ちゃんがペルーの友人にその話をすると彼はすかさず部屋を出て行った。すぐに廊下からドアをノックする音が・・・ドアが開く音が・・・なにやら言い争うような男二人の声が・・・しばらくしてペルーの友人が戻って来た。
彼は山ちゃんに「もう大丈夫だ!」と笑って言ったそうだ。山ちゃんが「イタリア語が話せるのか?」と訊いたら彼は「いいや、話せないけどイタリア語は理解できる。イタリア野郎も私のスペイン語は理解できる。」と言った。これで一件落着だった。
 山ちゃんはドイツ人だけでなくペルー人やポーランド人たちとよく飲んだ。彼らは高校を卒業してから来ているのでまだ若く、会話は下ネタも多かったようだ。ドイツ語もスペイン語も変な言葉はすぐに覚えた。ある日山ちゃんが町を歩いていると向うからペルーの友人が来る。通り過ぎ際に「ヒデト〜(山ちゃんの名前)!カンパ〜イ、オッパ〜イ!」と言ったのには閉口した。山ちゃんはスペイン語で「バカ野郎!」と言い返しながら周りを見た。なにせデトモルトは小さい町にもかかわらず日本人が50人近くもいたので誰かに聞かれては大ひんしゅくだった。