入学試験の朝、そして留学生活の始まり。


(ライヴィッチのお部屋がいいニャ〜!)
 いよいよ入試の朝がきた。大学へ向かうまでの朝日の眩しさや冷たく乾燥した空気、木立の鮮やかな緑。山ちゃんは今でも鮮明に覚えていると言う。物忘れの天才である山ちゃんが25年たった今でもはっきりと覚えていると言うのだから、よっぽど緊張していたのだろうと思いきや、山ちゃんは言う。「緊張を通り越して、ここまでやったんだという開き直りと自分の人生とレッスンをしてくれた先生への感謝だけだった。」と。
 入試は自由曲で山ちゃんは先生と相談してシューベルトとバッハの名曲を8名の管楽器教授陣の前で演奏したらしい。出来はかなり良かったと本人が言っている。結果は合格したのだから何でも言える。
 日本の大学は音大でも後日にまとめて発表されるがドイツの音大は全員が受験した後の午後、一人ずつ部屋に呼ばれ合否が伝えられる。ていう事は部屋から出てきた受験生の様子で受かったかどうかわかるって事になる。なんとも酷な話で、日本では考えられない事だが、合否に関係なく問題点とこれからの課題を指摘されるので勉強の参考にもなるし何より結果に納得できるだろう。
 実際山ちゃんは、がっくりと肩を落として出てくる者や「ヤッホ〜」と叫びながら出てきた者などを見届けて部屋に入って行った。教授陣8名は長机を前に座っていた。一人の教授が山ちゃんに「合格だ!」と言った。山ちゃんが無表情だったので「理解してますか?」と聞かれたので山ちゃんは「全く明明白白だ」と答えたのでみんなが笑ったらしい。とにかくこの瞬間から山ちゃんの留学生活が始まったのだ。
 その夜何人かの日本人が集まって山ちゃんの合格すきやきパーティーが開かれた。山ちゃんは嬉しかったと言っているが、私ルナピンスキーは、それは山ちゃん残念会のために用意されたものだと思っている。