マタイ受難曲より(4)

カトリックの大学を出た僕だが、安易にキリストの話を詳しくしない方がいいと考える。何よりキリストの生涯に興味を持っている方であるならばそのストーリーはご存じだろうし、この『マタイ受難曲』はどんな性質の音楽なのかも理解されてるだろう。
 『マタイ受難曲』僕のスコアでは全78曲になる。その第二部の47番にアルト独唱とヴァイオリンソロが美しい「憐れみ給え、わが神よ」があり、58番目にフルートの美しい旋律がある。その旋律にソプラノ独唱が入る。最初はフルートが弦楽器のシンプルな伴奏の中で旋律を奏でる。イエスの処刑が決まりけっして心穏やかではない中でフルートの旋律は悲しみを昇華した美しさがある。そこへソプラノ独唱が「愛によりわが救い主は死に給われる」と歌い出す。ソプラノ独唱とフルートが対等に旋律が絡み合ったり掛け合ったりする。本当に美しい場面だ。そしてこの曲の最期は最初のフルートの旋律に戻って終了だする。61番もヴァイオリンに「憐れみ給えわが神よ」と歌うアルト独唱が美しい。この58番の曲がアルトだったらよかったのに・・と思う。高音域のフルートに女声のアルトの方が合わないだろうか?おそらくバッハは人物の性格付けを楽器でもハッキリと表現したかったのだろう。
 音楽は「十字架上のイエス」へと向かう。そして『受難曲』最後は哀悼の場だ。合唱とソプラノ、アルト、テナーそれぞれが短いレチタチーヴォ語り合い、そして終曲だ。荘厳な悲しみを2つの合唱が表現をしている。そして3時間以上ある大曲『マタイ受難曲』は厳かに終わる。聴衆が拍手をしないで静かに教会を後にするのがわかってもらえただろうか。