卒業するという事(その2)


(頭を使わないと卒業できないよ)
 卒業の日はだいたい決まった。アヒレス教授も許可してくれた。あとは曲を決めるだけだが、これがけっこう大変だ。ちなみに山ちゃんが卒業した日本の音楽大学の卒業試験の曲は、課題曲としてエマヌエル・バッハ無伴奏ソナタから第1楽章、第3楽章(演奏時間約5分)と自由曲としてメシアンの「クロウタドリ」(当時は黒つぐみと言われていた)(演奏時間約5分)を演奏すればよかった。
 ドイツの音楽大学の卒業試験は、まず約45分程度の演奏会を大ホールでしなければならない。そして次の日にレパートリー試験として小ホールで合計約1時間の曲を演奏しなければならない。この2日間で演奏しなければならないのは、バッハなどのバロック時代の曲、モーツァルトなどの古典派の曲、ブラームスなどのロマン派の曲、ドビュッシーなどの1930年までの近代曲、そしてそれ以降の現代曲を演奏しなければならない。そのうちの1曲は必ず室内楽曲を入れなければならないのだ。それだけではない。上の曲にフルートの場合、モーツァルトの協奏曲とそれ以外の協奏曲を演奏しなければならない。さらにさらに、オーケストラ・スタディというオーケストラの入団試験で出されるフルートが目立つ難しい個所を集めたものから20曲練習してその中から当日10曲吹かなければならない。そして1週間前に出される課題曲があり、その場で出される初見演奏がある。これだけの課題をこなさなければ卒業できないのだ。山ちゃんは約1年後の卒業試験に向けて何を演奏するのかを決めていかなければならなかったのだ。